攻めのITと守りのITの違いを解説 ― 社内SEがいない中小企業は何から始めるか
シクミヤの福田です。当記事では、中小企業のIT活用でよく使われる「攻めのIT」と「守りのIT」の違いと、社内にITの担当者(社内SE・情シス)がいない会社がどこから手をつければいいかを解説します。
はじめに
守りのITとは
守りのITは、会社を止めないためのITです。パソコンの購入と設定、アカウントとパスワードの管理、Wi-Fi・ネットワーク、ウイルス対策、データのバックアップ、そして「動かない」ときの対応。今日も普通に仕事ができる状態を保つのが、守りのITの役割です。
攻めのITとは
攻めのITは、会社を前に進めるためのITです。毎月の手作業を仕組みに置き換えて時間を空け、その時間で売上を増やします。
手作業の自動化、二重入力をなくすこと、自社専用の業務アプリ、バラバラの数字を1つの画面にまとめること、問い合わせが増えるホームページ、AIの組み込みなどが、攻めのITに当たります。
守りのITと攻めのITの違い
2つの違いを表にまとめると、次のとおりです。
| 守りのIT | 攻めのIT | |
|---|---|---|
| 目的 | 止めない(いまの状態を保つ) | 増やす・減らす(いまのやり方を変える) |
| 仕事の例 | パソコンの設定、アカウントの管理、ネットワーク、ウイルス対策、バックアップ、「動かない」への対応 | 手作業の自動化、二重入力をなくす、業務アプリ、数字を1つの画面に、ホームページ、AIの組み込み |
| うまくいっているとき | 何も起きない | 時間が空く。売上が増える |
| 放っておくと | ある日、止まる。すぐに気づく | 何も起きない。気づかないまま、手作業が積み上がる |
| 測るもの | 止まった回数と時間 | 減った時間と、増えた売上 |
| 中小企業での担当 | 兼務の担当者か、外の保守業者 | 決まっていないことが多い |
いちばん大きな違いは「放っておくと」の行です。守りのITは、止まった瞬間に全員が困るので、必ず誰かが手当てします。一方、攻めのITは、やらなくても今日の仕事は回ります。そのため、後回しになり続けます。
言葉の成り立ち
日米の比較調査から広まった言葉
攻めのIT・守りのITという言い方が広まった背景の1つに、電子情報技術産業協会(JEITA)とIDC Japanが2013年に行った、日本とアメリカの企業の比較調査があります。
ITがこれまでにもたらした効果として、いちばん多かった答えは次のとおりでした。
| 企業 | いちばん多かった答え | 割合 |
|---|---|---|
| 日本企業 | 社内業務効率化/労働時間減少 | 43.5% |
| アメリカ企業 | 製品/サービス提供の迅速化/効率化 | 53.6% |
社内に向けた使い方を「守り」、お客様や売上に向けた使い方を「攻め」と呼び分けたのが、この言葉の使われ方の元になっています。
「攻めのIT経営銘柄」から「DX銘柄」へ
2015年からは、経済産業省と東京証券取引所が、ITを積極的に活用する上場企業を「攻めのIT経営銘柄」として選ぶようになりました。2020年からは「DX銘柄」に名前が変わり、いまも毎年選ばれています。
業務の効率化は、攻めか守りか
この分け方だと、業務の効率化は守りのほうに入ります。大きな会社では、効率化の目的が人件費などのコストを減らすことになりやすいためです。
人手の足りない中小企業では、事情が違います。日本商工会議所の調査(2026年7〜8月・2,654社)では、中小企業の60.0%が人手不足と答えています。手作業が減って空いた時間は、人を減らすためではなく、手が回っていなかった営業や接客、新しい仕事に回せます。
そこで当記事では、空いた時間を売上を作る仕事に回すための効率化までを、攻めのITに入れています。見分け方は1つだけです。
そのITで、何が増えるか
同じExcelの自動化でも、空いた時間を何に使うかを先に決めておくと、攻めのITになります。
- 参考 : 日本商工会議所「多様な人材の活躍等に関する調査」(2026年9月15日公表)
中小企業で攻めのITが手つかずになる理由
情シスの仕事の7割は、外に任されている
社内にIT担当がいない会社では、守りのITを外の業者に頼んでいることがよくあります。それ自体は正しい判断です。
株式会社バッファローが、中小企業(従業員10〜300名未満)の情報システム担当者111名に聞いた調査では、70.3%が情シスの仕事を外部に委託していました。委託している仕事の上位は次のとおりです。
| 委託している仕事 | 割合 |
|---|---|
| サーバーの構築 | 51.3% |
| ネットワークの構築 | 39.7% |
| パソコンの保守・管理 | 33.3% |
どれも守りのITです。委託する理由の1位は「専門的な知識・スキルを持つ人材が社内にいないから」(59.0%)でした。
保守の契約に入っていないもの
守りを外に任せると、パソコンやネットワークで困る場面は減ります。ただ、保守の契約で引き受けてもらえるのは、ふつう「止めない」ところまでです。
毎月の請求書づくり、同じ数字の打ち直し、紙の申請書の回覧。こうした手作業を仕組みに置き換える仕事は、その外にあります。社内にも担当がいなければ、攻めのITは誰も見ていない状態になります。
どこから手をつければいいか
① 守りが止まっているなら、先にそちらを
パソコンがよく固まる、ネットがつながらない、ウイルス対策が入っているか分からない、バックアップを取っていない。こうした状態なら、先に守りを整えてください。土台が揺れたままでは、上に何を作っても安心して使えません。
② 攻めは「1つ」から始める
よく勧められるのは、全部の業務を書き出し、課題を整理し、優先順位をつけてから始める、という順番です。考え方は正しいのですが、社内SEがいない会社ではここで止まります。会社全体を見て順番を決められる人がいないから困っているのに、その人がいないと始まらない手順になってしまうためです。
そこで、逆の順番をおすすめしています。全体を決める前に、1つだけ選んで直してしまう方法です。
最初の1つに向く作業
| 作業 | 向いている理由 |
|---|---|
| 毎月決まって発生し、締め日の前に残業が出る作業 | 減った時間を数えやすく、変化がはっきり分かる |
| 担当が1人しかいない作業 | 手間が減るだけでなく、その人が休んでも止まらなくなる |
| 同じ数字を2か所以上に入れている作業 | 入力の手間と、数字の食い違いが同時に消える |
最初の1つに向かない作業
- 基幹業務をまとめて入れ替えること
- 年に1回しか起きない作業
- やり方がまだ固まっていない業務
③ 戻ってきた時間を数えて、使い道を決める
1つ直したら、前と後で、月に何時間減ったかを数えてください。そして、その時間を何に使うかを決めます。ここを決めないと、空いた時間はいつの間にか別の雑務で埋まり、ただの効率化で終わってしまいます。
月に何時間空いたかが分かれば、2つ目から先は社内で判断できるようになります。時間の測り方や、最初の1か月の進め方は「業務改善の進め方」の記事で週ごとにまとめています。
業務改善・IT化・DXの違い
似た言葉が多いので、ここで整理しておきます。
| 言葉 | 意味 | 備考 |
|---|---|---|
| 業務改善 | 仕事のやり方を見直して、ムダを減らすこと | 手順や分担の見直しなど、ITを使わない改善も含む |
| IT化 | 紙や手作業を、ITに置き換えること | Excelで1件ずつ作っていた請求書を、ボタン1つで作れるようにする、など |
| DX | データとデジタル技術を使って、商品・サービスや仕事の進め方そのものを変えること | 経済産業省の定義を短くしたもの |
攻めのITは、IT化から始まって、DXにつながっていく道だと考えてください。中小企業では、言葉の違いより「1つ直して、時間が空いたか」のほうがずっと大事です。
攻めのITを外に頼むときの確認点
社内にやる人がいなければ、攻めのITは外に頼むことになります。どこに頼む場合でも、次の3つは確かめてください。
相談した人が、そのまま作るか
話を聞く人と作る人が別だと、伝言のたびに中身がずれます。現場の事情を聞いた人がそのまま作るのが、いちばん確実です。
手順書と一緒に渡してもらえるか
動くものだけを受け取ると、作った人しか中身が分からない状態になります。社内の属人化をなくすつもりが、外の人に頼りきりの新しい属人化になってしまいます。
何をするものか、どこを変えれば何が変わるか、止まったら何を見るか。ここまで渡してもらえれば、担当が替わっても回ります。
前と後で、減った時間を測ってくれるか
攻めのITは、測らないと効いたかどうかが分かりません。作る前と作った後の時間を、数字で残してもらってください。
まとめ
当記事のポイントをまとめます。
- 守りのITは会社を止めないためのIT、攻めのITは会社を前に進めるためのIT
- 守りは止まると全員が困るので必ず手当てされる。攻めはやらなくても回るので、後回しになりやすい
- 人手の足りない中小企業では、空いた時間を売上の仕事に回す効率化までを、攻めのITと考える
- 始めるときは全体の棚卸しからではなく、1つ直して、空いた時間を数える
- 外に頼むときは「相談した人が作るか」「手順書と一緒に渡すか」「前と後を測るか」を確かめる